2014/05/16

映画感想『ピラニア』

 原題"Piranha"
 邦題『ピラニア』
これの字幕版を観た感想について記す。

こんな映画



1978年公開、有名な低予算のパニック映画。
内容を大雑把に説明すると、研究で作られた強力なピラニアが川に放たれて大変だ! です。本当にそれだけなので感想をここで終了してもいいくらいですが、せっかくなのでじっくり記していきましょう。

舞台はとある夜の森林からはじまります。映画製作に関わっていたり、事情を知っている人なら、森林がスタジオセットで作られた紛い物であることが分かるでしょう。夜中の野外ロケはお金がかかるそうなので、スタジオで。既に低予算の臭いをかぎ取ることができます。

光の雰囲気・構造物の質感はセットのそれ

森林を行く中睦まじいカップルが、謎の施設を発見して入りこみます。施設内部(建物内部ではない点に注意)にあったプールを見つけると、なぜか泳いで遊ぶことに。みるからに廃墟である施設の、みるからに汚水の溜まったプールに、ですよ。

カップルの女のほうは服を全て脱いでくれます。やったね。

さて泳いでいると案の定何かに襲われて、カップルは水中に引きずり込まれてしまいました。浮き足だった人間が真っ先にあの世へいく。ホラー・パニック映画ではこれ以上ないほど月並みで、ご定番の始まり方です。しかしこれこそが「今からホラー・パニック映画が始まるぞー」という気概を奮い立たせてくれますね。

舞台は変わり、アーケードゲームで遊ぶ女がうつります。ここで遊んでいるのはサメを操作して魚を食べていくゲーム……ジョーズのゲームでしょうか? 魚が肝であることを匂わす、やや露骨なシーン。期待を盛り上げていきます。

再び舞台は変わり、とある男と老人の会話にうつります。老人の発音はモゴモゴとしすぎていて、かなり聴き取りづらいですね。今回は字幕版なので、意識しなくてもいい部分ではありますが、耳を傾けてみると何を言っているのかさっぱり。

女はマッキューン、老人と会話していた男はグローガン。今作の主要人物2人。

中央:マギー・マッキューン
左:ポール・グローガン

マッキューンは人探しを職業としています。探偵とでも言うべきでしょうか。マッキューンは冒頭に出てきたカップルの捜索を依頼されて、カップルが向かった森林地帯へと向かうことになりました。

マッキューンは道の途中でグローガンが住む森の一軒家に辿り着くんですね。グローガンによると森の中に軍の施設跡があると分かります。マッキューンはそこにカップルがいるに違いないとみて、無理をいって森を案内させる。

グローガンの家に入ったときのマッキューンは、なかなか厚かましいですね。初対面の人間に対して会話は大胆だし、どんどん家の奥にいって内部を見回すし。なんでこんなに図々しいんだろうと思っていると、要はそういうずぼらな人間なんですよと示しているみたいです。

これから先、マッキューンのずぼらさを見られるシーンが幾度も登場します。しかしこの時点では、厚かましさのほうが目立ってしまっていますね。独自のかわいげがないこともありません。

二人は軍の施設跡に赴き、プールを見つけます。カップルの証拠がプールの底にある可能性を想像します。水を抜くために施設の建物内へ入ると、人の住んでいる気配がするし、実験器具がまだ動いているではありませんか。

建物内を見て回る二人、それを物陰から覗く謎のクリーチャーが現れます。子犬みたいな大きさの半魚人は、人形アニメで動かされています。細かい動きがかわいらしいですね。ところがこの子、これ以降は登場しなくなります。

こいつ、なぜ出てきたのでしょうか。「今作のマスコット枠だろうか。終盤あたりで身をていして主役たちをかばったりするのだろうか」と私は考えたほどですが、そんな要素は一切ありません。そう、一切ありません。マジで、登場しただけ。

右側の茶色いの

こいつは結局なんだったのか

二人はプールの水を抜く機械を見つけたので、いざ機動しようとすると、施設の博士が現れて水を抜くなと襲いかかってきます。しかし水は抜かれてしまい、プールは綺麗さっぱり。博士は何をしてくれたんだといきり立ちます。

二人はとりあえず、博士がカップルの詳細を知っているだろうと判断します。拘束して街に行くことになるのですが、色々あって車が使えなくなったのでイカダで川下りをすることに。この川下りの最中に、博士からピラニアの詳細を教えられるんですね。

さてイカダよりも川の下流、グローガンと会話をしていた老人が映し出されます。犬をひきつれて釣りをしているのですが、川に両足を浸していたのが運の尽き。ピラニアに襲われてしまいます。最初のカップルを除いて、初めての犠牲者ですね。

川下りをしてきた三人は現場に辿りつきましたが、老人は両足の肉を食いつくされて死んでしまっていました。肉片がへばりつき骨ばかりとなった陰惨な両足は、ほんの数秒しか映りこみません。それがむしろ、グロテスクさを脳裏に焼き付けてきます。

さて、映画がはじまって26分くらいでしょうか。犠牲者こそ出てきましたが、肝心のピラニアはほんの少し、サブリミナル映像のようにしか映りこんでいません。実はこの調子が映画の終盤まで続いていきます。

ピラニアの映るカットは少ない。なにせ水中にいる無数の殺人魚なので、はっきり映像化しようとするのは低予算では困難でしょう。しかしその数少ないカットこそが、見せ場でもあります。

今作におけるピラニアの映し方は、とても面白いです。低予算ならば低予算なりの戦い方をしてやろう、という工夫が随所に感じられるんですね。

人を襲うシーンなんか、水辺で慌てふためいている役者を映しさえすれば事足ります。ピラニアが迫るシーンは模型で作った魚群を行き来させるだけでも、一瞬だけならそれっぽく見えます。熱帯魚を映した映像を用いるだけでもいい。肉に食らいついているシーンは、役者の肌にまとわりつかせた模型を小刻みに震わせればいい。

ピラニアが迫りくる!

左側:映像では小刻みに震えるピラニア

こうしたやり方は、ひとえに、ピラニアの姿が小魚であるからなせる技でもあります。もし今作の目玉が、それこそ施設に出てきた半魚人だったとしたら、上に述べたような技では誤魔化せない部分が多々出てきたことでしょう。

あ……もしかしたら当初は半魚人を使う予定だったとか? けど人形アニメを全編にわたって動かすだけの力も資金もないから、ピラニアにせざるをえなかったとか? あの半魚人は制作陣の悲痛な叫びだった……?

そこんところは私には分かりません。

ようやくピラニアの脅威に気付いたグローガンとマッキューン。ここにきてピラニアを食い止めるための川下りになります。博士によるとピラニアはかつて軍事目的で軍の指示によって作っていたようですが、それについてマッキューンと意見を交わします。

博士はこう言うんですね「私は殺していない(人を)。殺すのは政治家や軍人だ。私は科学者だ」こういう風に本人は自身の罪を認めませんが、それでも人間ですからね。博士にも後悔の念があるのです。

後悔の念が表に出るのは別のシーンです。さらに下流、父と息子の親子がボートで遊んでいましたが、父がピラニアに襲われてしまい、ボートは反転、息子は不安定なボートの上に取り残されてしまいました。

川下り組はボートにしがみつく息子を発見して、助けようとします。このとき誰より先に飛び出していったのは博士でした。泳いでボートまで辿り着いたはよいものの、案の定ピラニアに襲われてしまう。その後、博士と息子を助けだせましたが、博士はすぐに絶命します。

博士の抱いていた後悔の念が、こういう形で画面に映し出される。またそれによって博士が死に、唯一ピラニアの詳細を知っていた人が失われました。役目を果たした解説役にはとっととカメラの前から消えてもらうわけです。

二人は下流のダムに向かい、水の放流を食いとめます。ここで軍隊の助けを借りて、彼らは水に毒を流すことで解決を図ります。一件落着かと思いきや、ダムの近くに支流が流れていると分かり、グローガンはそこからピラニアが逃げだしていくことを警戒します。しかし軍隊は話を聞いてくれません。それどころか二人は事件の深い関係者ということで、軟禁されかけるんですね。

軟禁から逃れるために、監視している兵士をマッキューンが誘惑します。ただ無茶苦茶な誘惑の仕方で、埒があかないので「空を見て。スーパーマンよ!」という注意の向かせ方をして、けっきょく殴って昏倒させてしまいます。子供じゃないんだから……。

マッキューンは「スーパーマンよ!」のくだりで服をはだけて乳を露出させるんですが、これは必要だったんでしょうか。そういえば冒頭のカップルの女も脱いでいましたね。他のシーンで出てくる女は大抵が水着。今作に出てくる女優は脱ぐか、水着になるか、そういうノルマでも設定されていたんでしょうかね。

とはいえ、露骨なエロといえばせいぜいココとカップルとの2シーンしか見かけられません。ほとんどは水着ばかりで、健康的なエロさが中心ですね。ちなみに水着については、年頃な女に、幼い女の子のものまで、たくさん用意されています。特に幼い女の子では、スクール水着を着ているものもあり、魅力的ですね。

ここから先、グローガンとマッキューンは陸路を進んでピラニアを追いかけていきます。ここまで来ると、実は今作の中心はピラニアではなく、二人の活躍であると気付くでしょう。二人がピラニアを追いかけるも様々な邪魔が入ってくる。果たして二人はピラニアを駆逐できるのか、そうした焦燥感が軸にあります。

犠牲者が出て、二人は現場に駆け付け、また犠牲者が……の繰り返し。最後には川辺に作られたテーマパークで大量の犠牲者が出てしまい、これが今作のピークですね。水辺で泣き叫び逃げ惑うエキストラたちを、思う存分眺めることができます。

血まみれのエキストラが大量に出てきます。肉が食われたような特殊メイクの施されたエキストラもいますが、これが案外少ないんですね。そう、今作は意外とグロシーンが少ない。ただ血が流れるシーンは多い。

水辺なので流血を表すには、水を赤く濁らせさえすればよい。これも撮影の大半が水辺であるからこそなせる技ですね。グロシーンを少なくしつつも、ピラニアの被害とおぞましさと演出している。お見事。

役者を暴れさせ水を濁らせ、はいピラニア襲撃シーン

ピラニアとのケリをどうやってつけるのか。二人は、さらに下流にあった廃工場を利用します。廃工場の下をピラニアが通過していくと予想して、工場廃液を流して一網打尽にしてしまおうという提案。いざ廃工場に向かってみると、施設が水没しているではありませんか。そこでグローガンが、決死の水中突入を行うことになるんです。

グローガンはピラニアに襲われつつも、工場廃液を流すことに成功し、間一髪でマッキューンに助けられます。全身に深い傷を負いながら、一命は取り留めている。これで映画は終わり。

肝心のピラニアは駆逐できたのか? ハッキリと映したシーンはありません。最後には川の下流である海をバックに、エンディングのスタッフロールが始まります。脅威が完全に去ったのかは分からずじまい。もしかしたら奴らは海に逃れたのかもしれない。ホラー・パニック映画ではお決まりの終わり方ですね。



結論。
今作は典型的な低予算パニック映画です。とはいえ、ツボをおさえた演出と丁寧な作りが、それなりの見ごたえを約束してくれています。軽快な男女二人組を主軸に据えて、ほどほどのグロ要素と、ほどほどのお色気を見せていく。

ほどほどであるところがポイントです。ほどほどの不快感や下劣さがスパイスとなっていて、ちょっと見てみようかなという軽い気持ちでも、楽しめる。それは裏を返せば、強烈さを求めている人には、物足りないでしょう。

また、低予算なりの工夫が分かりやすい点もポイントですね。良い意味で"粗探し"が楽しい映画なんですよ。もちろんピラニアの映し方は、作り物であると悟らせない努力がなされています。しかしやはり、限界はあります。どうしても粗は見えてしまう。ただその粗は、決して興ざめするようなものではない。

カジュアルなパニック映画として観るか、低予算映画の低予算らしさを観るか、それはあなた次第。まあ、こういう映画もあるってことを覚えておいてください。

余談。
続編『殺人魚フライングキラー』
リメイク『ピラニア 3D』
これら作品も興味があれば、ごひいきに。

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