2014/05/12

映画感想『マスク』

 原題"The Mask"
 邦題『マスク』
これの吹き替え版を観たので感想を記す。

劇場ポスター(らしい)



ジム・キャリー(以降JCと呼ぶ)主演のドタバタコメディ映画といえば? そう、マスクです。日本人にも知名度の高いこの映画、1994年(日本では1995年)に公開されたので、30代の人なら名前くらいは知っているはず。

さて今回は吹き替え版を観ました。

すこし自分の話をしますが、私は以前は「吹き替えなんて映画の価値が下がる。観るなら原語版(字幕版)でないと」とかたくなに思っていた人間でした。最近は吹き替えも悪くないかなと感じています。吹き替え版の何がよいか挙げてみましょう。
・劇中のやり取りが母国語なのでスラスラ聞ける。結果、映画に集中できる
・吹き替え声優の演技を楽しめる
両方とも大事な要素ですが、今作では特に声優の演技が目玉ですかね。主役に声をあてているのはなんていっても山寺宏一。彼のひょうひょうとした声は、JCの演技にピッタリです。

では本題。

アメリカのとある街のとある海岸、海中で潜水士が宝箱を開けようと頑張っています。この時点で疑問が満載。「この潜水士は誰だ?」「なんで潜ってるんだ?」「なんで街のすぐそばの海に宝箱が?」「どうやって宝箱を見つけた?」

しかしどの疑問もまったく気にしてはいけません。なぜなら潜水士はこれ以降は一切出てこないし、さらなる不可解の連続が繰り広げられていくからです。

潜水士がようやく宝箱を開けることができたと思ったら、とある船の海面で行っていた作業が事故を起こしてしまいます。潜水士は水没した丸太に押しつぶされてしまい、開いた宝箱からは謎の仮面が浮き上がっていってしまう。一見するとホラー映画のような始まり方ですがご安心ください。ホラー要素はほとんど出てきません。

ところかわって場面はとある銀行。JC演じる銀行員はスタンリー・イプキスが映り出ます。どうやら彼は、やり手という言葉とは無縁な様子です。そんな冴えないイプキスの元にティナという美人のお客さんがやってきます。

マジで、美人。他に出てくる女優さんと比較してもだいぶん目立つので、なんだろうなと思っていたら、演じているのがキャメロン・ディアスだったんですね。ティナは艶やかな行動言動を見せびらかしながら、口座を作りたいと言ってくる。

今作で映画デビューだとか

このとき誘惑目的なのか何なのか、イプキスのネクタイに「変わっているわね」と注目します。たしかに、実際風変りなネクタイです。白と黒の模様が複雑に入り混じっていて、目立つ。銀行員がこんなネクタイを職場で身につけていて平気なのかしら。と思わず心配になってくるほどです。

ここで映像が引き抜いていくのは、ティナの鞄です。正確にはティナの鞄に仕込まれた隠しカメラ。カメラは銀行内の様子を、みるからに悪そうな一味のテレビへと中継していたのです。どうやら悪党たちは銀行強盗の計画をもくろんでいるらしい。

親分らしき男ドリアンが、部下にやれるかと言います。部下は大丈夫だと言いつつ、こんなことをして平気かとも返してくる。街を取り仕切っている首領ニコを恐れて、危惧をしているわけです。しかしドリアンはニコは恐るるに足りないという態度。のしあがろうという気配がムンムンです。

さて、朗報です。この時点で作中における主要ポイントはすべて画面に映りました。始まって10分くらいでしょうか。主役のイプキス、ヒロインのティナ、悪役のドリアン。彼らの行おうとしていること、行いそうなことは、全て描写されました。映画慣れしている人なら、ストーリーの大まかな予想をたてられることでしょう。

イプキスは仕事が終わったあともすったもんだあり、猛烈に冴えない感を発揮します。その日の締めには、海でおぼれている人を見つけて助けようとしてみると、ただの浮き具だった。ここで、彼は冒頭に出てきたマスクと出会います。その不思議な様子に魅了されて、ついつい持ち帰ってしまうんですね。

彼の自宅は注目するべきところが多いです。カートゥーンのフィギアやグッズが散見されます。注目してほしいのは、ルーニー・テューンズに登場するタズマニアンデビルのプリントされた、クッションですね。実はとある伏線になっています。

帰宅早々、VHSのカートゥーンをテレビで流し始めるイプキス君は、オタク気質といってよいでしょう。若い頃に観ていたときは気にもしなかったシーンですが、今見ると「彼もそういう人間かあ」と思わされました。

そしてアパートの管理人にカートゥーンの音がうるさいと注意され、仕方なくテレビに変える。偶然仮面の専門家だという人がトークをしていて、仮面の話がイプキスを惹きつけます。これが、彼にマスクを被らせることになる。

マスクによって変貌したイプキスは、現実離れしたありえない馬鹿げた行動を繰り広げます。しかしこの感じ、どこかで見覚えが……? 作中でのマスクの動きは明らかにカートゥーンを意識したものばかり。例えばマスクは移動する際、竜巻のごとく高速回転します。実はこれ、タズマニアンデビルの動きとそっくりなんですね。

タズマニアンデビル

この際一気に、マスクのカートゥーンリスペクトな動きを挙げていきましょう。
(1)タズマニアンデビルの如き高速回転
(2)悪党から逃げるため安っぽい変装、安っぽい演技をはじめる。しかも騙される悪党
(3)ポケットから無数に物が出てくる
(4)逃亡のため、扉を過剰に工事して塞ぐ
(5)その場で絵を描いたら具現化し、しっかり機能する

これは私がそうと感じた場面を挙げたに過ぎません。カートゥーン通の方ならもっとたくさん気付く場面があるでしょう。

とにかく本当に、心底リスペクトしているんです。というかもう、まんまルーニー・テューンズの表現が実写化されたと言うべきでしょうか。(2)なんてバッグズバニーがよくやる行動ですし、(5)もロードランナーで見ることができます。

カートゥーン表現を真似するというより、全力で実現しようとしている。JCのオーバー演技もそれを手助けしている。アニメ・マンガ表現を現実に落とし込む作品は、大抵が下らなさを払拭できずに終わります。しかし今作は、アニメ・漫画表現の空気をうまく理解してくれていますね。

というわけでカートゥーン的何でもありな力を手にしてしまったイプキスは、とある夜に、どうしてもティナに出会いたくなって力に頼ってしまいます。ティナが勤めるカジノ、ココ・ボンゴに行くため。まずは資金の調達。

なんと自分が勤めている銀行から金を奪い取ってしまう。ちょうど居合わせていたドリアンの部下の強盗犯たちは、あえなく何もできませんでした。それどころか警察がやってきて、銃撃戦をする始末。パトカーがやってきたなり拳銃を撃ちまくる強盗犯たち……たしか前のシーンで自分たちはプロだと言っていたはずですが、おやおや?

ティナと楽しい夜を過ごし、ドリアンに強盗を邪魔された腹いせに銃撃されたりもしながら、マスクの力で難なく一夜を明けることができたイプキス。しかし、彼は事態が収集つかなくなってきていることに気付きはじめます。

イプキスは非マスク状態でティナに再び出会い「マスクの男は知り合い」だとウソをつきます。そしてティナとマスクが再開できるように待ち合わせをとりつける。しかしここで葛藤が生まれます。イプキス自身としてティナに出会うべきか、マスクとして出会うべきか。悩みながら待ち合わせ場所の場所に向かう。

結局ティナとは、イプキスとして出会ったあとにマスクとして出会うことになってしまいます。そしてデートがヘンテコに盛り上がってきたところで、警察が介入してきてマスクを捕えようとする。

マスクは警察を出し抜いて逃げて、けどドリアンに捕まってしまいます。マスクを奪われ、警察に引き渡されて投獄されてしまうんですね。イプキスは牢屋から窓の外を見て、ティナが悪党に追いかけ回されている現場を目撃し、助けるために脱獄を決意。

脱獄の際に飼い犬のマイロが手伝ってくれるんですが、これはまあ予想の範囲内というべきでしょうか。冴えない主人にやさしい飼い犬、それなら犬が頑張っちゃうのは、映画ではよくあること。しかし、マイロの活躍はこれだけでは終わらないことを、覚えておいてください。

イプキスはみごとい脱獄して、ケラウェイ警部に見つかりながらも彼を脅して車を走らせます。ティナを追いかけて、ココ・ボンゴへ。

一方、ティナを捕まえたドリアン。イプキスから奪ったマスクで変身し、ダイナマイトと共にココ・ボンゴへ襲撃にいきます。そこでまあ念願だった首領のニコを殺すことに成功するんですね。どうやら彼は自分の権威を示すため、店を爆破するようです。

そこでティナを爆発の巻き添えにしようとします。それは彼女がマスクと踊ったことに対する嫉妬心から。しかしここで、ティナの機転によりドリアンからマスクを退けることに成功します。マスクを取るのは誰だ! さあ脱獄して店に潜入したイプキスか、ドリアンの部下の誰か……マスクをとったのは、なんとマイロでした。

マイロがマスクを被って、暴れ回っちゃう。これはほんのちょっぴり予想外だったのではないでしょうか。人間にしか被れないものと思いきや、実は動物にも被れたんですもの。とはいえマスクマイロの活躍は、イプキスのそれよりは控えめです。子犬が猛犬になった程度ですよ。

その後でようやく、イプキスがマスクを被って、マスクとして最後の立ち回りを見せてくれる。無事にドリアンを倒し、爆弾を解除し、ティナを助けてめでたしめでたし。

個人的に、終盤の展開はものたりませんね。なにせ、中盤まではマスクが大暴れしていました。走って跳ねて、歌って踊って、銃を撃って。それと比べると、どうしても終盤は落ちついている感じがします。



結論。

今作は典型的なアクションとラブロマンスを、カートゥーンリスペクトなノリで思い切り装飾した映画です。一発芸や、ジャンクフードのような野暮ったさはありますが、マスクという軽快で洗練されたキャラがうまくバランスをとってくれています。

JCの雰囲気は本当にたまりませんね。とても好青年っぽくありながら染み出る三枚目臭が、圧倒的な親しみやすさを沸かせてきます。顔の造りは美形なほうなのに、コミカルさが上回っている。

映画批評家"Cinemassacre"は映画『バットマン フォーエバー』の批評において、リドラー役で出演したJCをこう語っています「画面にうつっているのがJCなのか、演技なのか、分からない」JCというのはそれくらい本人が際立っているんです。

マスクにおいてもその片鱗は感じ取れますが、実際のところ、いうほど目立っている感じはしませんね。というのもJCがスタンリー・イプキスでいるときは、三枚目の好青年としてよくマッチしているわけです。たしかにコメディアンらしい大仰な演技がちらほら見られますが、目くじらをたてるほどではないでしょう。

いざマスクになってから彼の本領が発揮されるわけですが、マスク状態では顔面グリーン一色だし、坊主頭になっているし、もう別人です。マスクが、まさに仮面のように活きている。仮面はJCという一種のキャラを覆い隠し、エキセントリックな部分だけを表に出してくれているんですね。

それがある程度のVFXで装飾されることにより、JCのようでいてJCでない、独立したマスクというキャラが出来上がっている。私が思うに、今作でもっとも褒めるべきところはコレです。JCを目立たせつつ、暴れさせない。うまく手綱を引いている。

 なんともいえない見事な顔とキャラ

年を重ねたJCは親しみやすさが増している

また、こんな暴れ馬にピッタリの声をあててみせた山寺宏一もさすがですね。彼自身も特徴ある声をもっていますが、作品によっては、演技でうまく隠してみせます。スタンリー・イプキスと、マスク、それぞれで演技を変えてみせる山寺宏一を、ぜひ味わってみてください。

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