2014/06/05

映画をみる『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』

 原題”The Nightmare Before Christmas”
 邦題『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』
これの吹き替え版を観た感想と紹介を記す

劇場ポスター(らしい)



今作『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は、映画人ティムバートン代表作の一つ。ディズニーのミュージカル映画でありながら、彼の特徴がよく表れています。今作を記すにあたっては、まず[ビジュアル/物語]の2面から見ていくのがよいでしょう。



ビジュアル

今作を語るにあたって避けて通れないのが、今作を形作るビジュアルですね。なんといっても、人形アニメです。

登場人物たちは決して動かないはずの人形たち。しかし彼らは、製作チームの手によって見事に動いてみせます。歩き、走り、跳びはね、とにかく人間ができることをすべて活き活きとやってみせるんですね。

人形なので、登場人物の質感は生のものではない。動きだって人間を模倣しつつもかすかなぎこちなさがあります。そこからにじみ出る雰囲気が、またこれ不思議なものを見ているという質感に一役買っているんですね。

人形特有の質感が目をうばう

とはいえそれは人形アニメを含むストップモーションアニメ全般に言えることでしょう。今作では、動きの豊かさと、登場人物の多さが、類似作品を凌駕しています。人形アニメといえばトビトビな動き、画面の密度の薄さなどにより、大抵は違和感がつきまとうもの。今作はそれがなく、不思議な質感だけに没頭できます。

登場人物が人形なら、彼らの住まう土地も等身大のもので作られています。地面や建物はミニチュアなわけで、本物の土・コンクリート・鉄ではありません。それもやはり登場人物同様に、不思議な質感があります。

みるからにふだん我々が見ている景色とは異なっていながら、影のつき方は現実的です。鉄柵や木から伸びる影は、見慣れたものが感じられる。こうした2つ、見慣れないものと見慣れたものの絡む合うシーンが幾度も登場する。そのたびに惑わされることになるでしょう。

また今作の冒頭、墓場を映すシーンで、墓石に手影絵で作られた怪物の影が写り込みます。これもまた凝った造形の影であるため、一見すると手影絵とは思えません。しかし気付いてみると、何ともいえずニヤニヤさせられますね。

偽物の木や地面
本物の陰影

さて、今まで私は今作の人形アニメの部分だけを記していきました。実はもう一つ面白い部分があるんですよ。

手書きのアニメが使われているシーンが、少しだけあります。白い幽霊が飛び回ることがあるんですが、彼らは完全に手書きであり、二次元の存在です。現実のものしか使われていない今作の世界では、やや目立ちます。

他にもちらほら手書きアニメのシーンが見受けられます。登場シーンは少ないので、ちょっとしたアクセントという具合ですかね。

白い幽霊は手書きアニメ
カボチャや地面は作り物

そう。今作には3つの世界が混じっているわけです。人形アニメによる物質的な世界。それを支える影から織りなされる現実の世界。手書きアニメによる二次元の世界。これらがうまく混ざり合い、唯一無二の世界ができあがっています。

そんな世界を案内してくれるのが、主人公であるジャック・スケリントン。骨で構成された真っ白い体に、黒白シマ模様のスーツを着ています。手足が細長く、全体は非常にスマート。ゴシック・モダンの洗練された姿が、実に魅力的ではありませんか。

ジャックは一方で愛嬌のある顔をしています。それに細長い手足を振り回して動き回る様子は、ひょうきんでかわいらしい。とまあこんな風に、今作ではジャックを代表として目を惹くデザインの登場人物がたらふく出てきます。

ジャック・スケリントン



物語

今作の物語は平たく言うと「ハロウィンの怪物たちがクリスマスをする」です。ハロウィンとクリスマス、一見正反対のものに見える2つ。いったいどうなるのでしょうか? 見てみましょう。

舞台はホリディワールドというところから始まります。ここはまさしくホリディ(祭日)の世界であり、それにまつわる人々が住んでいます。キリスト復活祭や感謝祭、クリスマスやハロウィンは、それぞれがわかれて街となっているんですね。

各街に住む人々は、その街にあたる祭日が我々の世界に訪れた際、祭日にふさわしい出来事を届けるのです。クリスマスタウンならば、サンタクロースが良い子にプレゼントを送る。ハロウィンタウンならば、怪物たちが人々を脅かしにいく。

祭日の擬人化ですね。日本でいえばどうなるでしょう。ひな祭りの街があって、そこにおひな様たちが住んでいる。彼女たちは人間世界にひな祭りが訪れたら、ひな飾りの仕事に赴く……そんなところでしょうか。

ハロウィンタウンの住人たちは、ハロウィンというおどろおどろしい祭日にふさわしい怪物ばかり。お化け、狼男、吸血鬼、マッドサイエンティストに人造人間、そして主人公のジャック。ハロウィンの象徴たるカボチャの王であり、ガイコツ男でもあります。

場面は、今年のハロウィンも無事に終了したある時。ジャックは毎年行われるハロウィンに嫌気がさしていて、人間を驚かせるのではない、別のことがやりたいと悩みます。そんな彼を遠くから見つめる人造人間の女性サリー、彼女は今作のヒロインですね。

ジャックはハロウィンへの倦怠感からあてもなく道をさまよい、やがて深い森の中、とある木に囲まれた場所へ辿り着きます。そこの木には、ホリディワールドの各街につながる扉が設けられているんですね。ジャックはその扉の中でも、クリマスツリーの形をしたものに目を惹かれます「なんだこれは?」と。

(……歩いただけで辿り着けるような場所を、なぜ今まで知らなかったのかは奇妙ですね。まあ大目に見てあげましょう)

扉の中に吸い込まれたジャック、落っこちた先はクリスマスタウンでした。そこでクリスマスの和気あいあいとした空気、白い雪、などなどを始めて体験し衝撃を受ける。ハロウィンにへきえきしていた彼にとって、たまらない刺激でした。

(ここで映るクリスマスタウンのシーン。アニメ『グリンチはどうやってクリスマスを盗んだか』にも、似たような構図のシーンがありますね。雪山の中の街というと、こういうイメージがついているのでしょうか)

上:ナイトメアー・ビフォア・クリスマス
下:グリンチはどうやってクリスマスを盗んだのか

ジャックはクリスマスタウンの玩具やツリーなどを持って、ハロウィンタウンに帰ることになります(どうやって帰ってきた)。そこで住人たちにクリスマスの素晴らしさを伝えようとするんですが、実はジャック自身も完璧には分かっていないんですね。

クリスマスといえばサンタクロース。ジャックは彼のことを「サンディクローズ」という名前で覚えてしまっていました。その容姿も、不気味なものと想像していたのです。サンタクロースがクリスマスの夜にすることも、すっかり勘違いしてしまっています。

とはいえ、クリスマスに魅せられたジャックは、クリスマスから感じた素晴らしさの正体を自分なりに研究しようとします。実験道具を用いて、人形を解剖したり、キャンディーを溶かしてみたり……本人は科学的・論理的に調べようと努力しますが、まるで見当違いな方法であることは一目瞭然ですね。

ところで、いつものことですが……こういう風に、登場人物が失敗に突き進んでいく姿はハラハラしますね。「見ているほうが恥ずかしい」とでも言いましょうか。思わず見るのをやめてしまいたくなりますが、それだけに惹きこまれる。

数式でクリスマスが理解できるのか……?

ジャックはクリスマスの正体に幾日も悩みます。研究し尽くし、クリスマスにまつわる物語や歌をことごとく暗記し、それでも分からない。しかしハッと気付く。クリスマスはきっとそんなに難しいことじゃない、自分で試してみればいいんだ、と。ジャックは、今年のクリスマスをハロウィンタウンの住人で行うことに決めたのです。

ハロウィンタウンの住人はさっそく、クリスマスの準備にとりかかります。総出で良い子に配るためのクリスマスプレゼントを作っていくわけですが、それはいかにも怪物たちの発想らしい、不気味でグロテスクなものばかり。

良い子を楽しませなければいけないわけですが、不気味なもの、グロテスクなものこそが住人にとって「楽しいもの」なんですね。これはやり方が変わっただけで、人を脅かして楽しむことと変わりありませんね。

ジャックはサンタクロース本人にかわって人間世界に繰り出すつもりでした。彼がとった行動は、本物のサンタクロースを捕まえることでした。曰く「今回は休ませてあげよう」。しかしサンタクロースの誘拐を実行したロック・ショック・バレルの悪ガキ三人組は、彼をウギーブギーと言う名のブギーマンの元に連れていき、殺そうとする。

ところでサンタクロースとブギーマンが対面するのは、クロスオーバー的な雰囲気があってワクワクしますね。かたや、聖なる夜の聖人君子。かたや、都市伝説に君臨する恐怖の幽霊。これは夢の対決といってよいでしょう。……作中では対決などしませんが。

ジャックはこうして偽のサンタクロースと成りおおせて、人間世界に危険なクリスマスプレゼントを届けにいきます。案の定、人間世界は大混乱、軍隊まで動き出す始末。ガイコツトナカイで空をかけるジャックめがけて大砲を放ちます。ジャックは歓迎の花火だと思っていましたが、しまいには大砲に直撃してしまい、墓場に落下します。

プレゼントが引き起こす騒動

ジャックは心底落胆します。心からみんなを楽しませようとしたのに、結果はこの有り様。なぜなのかと自問しますが、答えは出てきません。しかし彼はむしろ開き直ります「ボクはがんばった!」そしてサンタクロースの真似をしたことで、あらためて自分のやるべきことに気付くのです。やはり自分にはハロウィンが性に合っていると。人を脅かすことのほうがよいと。

ようするにジャックは、単にハロウィンに飽きていただけなんです。そこでたまたま目に飛び込んできたのがクリスマスというだけに過ぎません。そしてクリスマスを行ったからスッキリして、本業のハロウィンへの意欲を取り戻したのです。

元気になったジャックですが、捕まえていたサンタクロースのことを思い出します。まだクリスマスに間に合うかもしれないと、彼を探しにいくことに。

サンタクロースはどうなっているでしょうか? ブギーによって殺されそうになっていたサンタクロースですが、サリーが助けに現れます。サリーは、ハロウィンタウンの住人の中で唯一、今回のクリスマスがうまくいかないことを予感していました。そのために、サンタクロースを助ける必要があると思っていたのです。

しかしサリーもブギーに捕まってしまいます。サンタクロースと二人揃って殺されそうになっていたところ……すんでのところでジャックが間に合いました。ジャックとブギーの戦い。ブギーは部屋中にこらした罠を使います。

この罠が動き回るシーンは壮観です。よくもまあ作ってみせたというものです。罠を避けて、さながらアニメのごとく動き回るジャックも素晴らしい。人形アニメはここまで派手にできるものなんですね。

すったもんだあってブギーを倒したジャックは、サンタクロースにお詫びを伝えます。さすがに誘拐されたということでサンタクロースは怒り心頭といった様子。「この街(ハロウィンタウン)でまともなのは彼女(サリー)だけじゃ」とまで言います。

サンタクロースはさっそくクリスマスプレゼントを届けにいきます。ジャックはサリーと共にハロウィンタウンに戻って、生存報告をして住人を沸かせます。ここでサンタクロースから街の住人へクリスマスプレゼントが届きます。それは雪でした。街は雪と氷に包まれて、住人は初めての出来事に喜びます。

ジャックは最後、サリーの元にいき愛を告白します。作中でサリーはたびたびジャックに世話を焼いていましたが、ジャックはそれに気付かずにいました。しかしそれが、ここにきて報われる。

ジャックがサリーの思慕に気付いた一番の理由は、やはりサンタクロースの一件でしょう。彼によって気付かされたと言えます。こう考えると、彼からジャックへのプレゼントは、サリーという存在だったのでしょうね。

とまあ、こんな風にして、今作は終わりです。

次は、今作の主題でもあるクリスマスと、結論の話をしましょう。



クリスマスとは?

既に話した通り、今作は「ハロウィンの怪物たちがクリスマスをする」が全て。ところが、そこにはこういう疑問が含まれています「クリスマスの本質とは何か?」

ジャックはクリスマスタウンの和気あいあいとした空気に感動して、その正体を探ろうとしました。彼がとった方法は科学的・論理的なものです。つまりジャックは、クリスマスにまつわる物・クリスマスの形式、それらありきで考えたわけです。

そのためジャックが至った答えは「プレゼントを渡せば相手を楽しませることができる」「サンタクロースの真似をすればクリスマスが分かる」でした。たしかに間違ってはいませんが、それが本質でないことは、皆さんにもうっすら感じられると思います。

「じゃあクリスマスの本質ってなんだよ?」

お答えしましょう。

作中で、クリスマスタウンの人々はどのようにしていたか見てみましょう。友だちとそろってスキーをしあったり、暖炉の前で親子そろって過ごしたり。……ここに潜んでいるものは、月並みな言い方になりますが「心」です。

ここで言う「心」は。決して高尚なものではありません。知り合いと気兼ねなく遊べる楽しさとか、家族と一緒に過ごす安らぎとか、そんなものです。クリスマスは祭日(休日)ですから、知り合いや家族と会うことができる。そうした交流から、楽しさや安らぎの心を味わうことができる行事と言えますね。

もしピンとこない人がいたら、お正月を考えてみてください。お正月に家族そろって、家でTVの正月特番を垂れ流しながらダラダラ過ごす様を考えてみてください。私が思うに、それはクリスマスの本質に近いものです。

ジャック率いるハロウィンタウンの住人は、この心というものを知らなかった。彼らの常識の中には存在していなかった。彼らは人を怖がらせ、驚かすことが仕事です。怖がらせ、驚かすのは、何か不気味なものを与えることで成り立つもの。住人たちにとっては、この「与える」行為のみが全てなんですね。

ではクリスマスの本質たる心はどうか? 心は与えたり、与えられたり、そういうものではありませんね。知り合いとワイワイ過ごしているときの楽しさ、家族と静かに過ごしているときの安らぎ、これらは自然に生まれてくるものです。

こんな風にして、ジャックはクリスマスの本質を最後まで理解することはありませんでした。そしてクリスマスを大失敗してしまった償いも、後悔もありません。大事なことに気付かぬまま終わる……なんだか、主人公らしくないですね。それでよいと思います。なにせ彼は怪物なんですからね。

失敗を開き直るジャック

しかし今作の受け手たる我々は違います。ジャックの行動をみることで、ほんの少しでもクリスマスの本質に気付くか、思い出すことができるでしょう。人形を解剖したり、キャンデーを溶かしたり、物語を暗記したり、サンタクロースの真似をしたり、クリスマスの中心はそこにはないんだよと。



結論

今作は類まれなる超クオリティな人形アニメによって、クリスマスという楽しい行事を、ちょっとひねくれた視点で描いてみせました。人形たちの独特の質感は、まさしく彼らが異世界の住人であると思わせてくれるだけの、説得力を持っています。

主人公ジャックが最後までクリスマスに対して勘違いをしていた点は、受け手を少しモヤモヤさせます。あと登場するサンタクロースがイメージよりも高圧的だったり。とはいえ、ステレオタイプでないその姿が魅力でもあるわけです。

クリスマス。今記事を発表したのは6月。時期がまったく違います。とはいえ皆さん、今年のクリスマスまで今記事のこと、そして『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のことを覚えておいてください。

0 件のコメント:

コメントを投稿