2014/07/17

サイレントヒル祭り Part2

 原題"Silent Hill"
 邦題"サイレントヒル"


ゲーム好き、映画好きの間で共通している意見があります「ゲーム原作の映画は総じて失敗する」この映画版SHはどうだったのか? 見ていきましょう。



映画版SHのストーリーを大雑把に説明。

娘シェリル「SHに行かないといけない気がする」

ローズ「ではいきましょ」

ローズ「娘が行方不明で街は不気味でヤバい」

アレッサ「娘を助けたいなら協力しろ」

ローズ「娘を捕まえる歪んだ宗教はぶっ潰す!」

ローズ「娘を助けたけど現実に戻れないわ」

お わ り

初代SHとの主な相違点は2つ
・主人公がシェリルの母ローズ・ダシルヴァに変更
 (父はクリストファー・ダシルヴァ。ハリーっぽい見た目)
・アレッサ関連のストーリーが変更

「え、原作通りじゃないの? それダメじゃね?」

と思った方も多いでしょう。たしかに原作改変部分を無視することはできませんが、頭ごなしに否定するものでもありません。結論を言わせてもらうなら、原作改変などマイナス部分も含めて良い映画だと感じました。

というわけで[良い点/悪い点]を挙げていきましょう。



良い点

ホラー

SHといえばひと気のないさびれた町、血と錆びに覆われたドギツイ裏世界が思い出されます。そうした舞台こそがホラーの大きな要因になっていますね。


舞台の再現度は文句がありません。霧(今作では灰)に包まれた街はひんやりした空気がこちらにまで伝わってくるよう。建物の廃墟らしさは、現実のセットが使われていることもあって上々。良い意味で原作より汚れが目につきます。

裏世界の雰囲気もなかなかのもの。ただ裏世界への入り方が妙にカッコよく描写されていてやや恐怖を削ぎます。この入り方は受けがよかったらしく、後にゲームにも逆輸入されました。

映画47分あたり、裏世界に登場するシェリル。かなり怖い。脈絡なく意味不明の場所に現れて何をしているかといえば机にすわってお絵かき。

色鉛筆を動かす手は凄まじく早く、カメラに向けた顔が『ジェイコブス・ラダー』的に痙攣してみせる。この痙攣演出はSHシリーズのクリーチャーもよく見せてくれます。何回見ても背筋がゾクっとする恐ろしさ。



登場人物(クリーチャー含め)

女優がメインを張っているおかげでなまめかしいシーンが多いですね。クリーチャーに襲われて逃げ惑うシーンは体をくねくねと動かす。着ている服は胸元が開いているし、雨にぬれたり血に汚れたりで体にピッタリ張り付いていくし。

へたれこむローズ 

左:服の張り付いたローズ
(右:シビル)

そんなローズに協力するのは婦警官シビル・ベネット。凛々しく頼もしい。しかし終盤では悲劇に見舞われます。この悲劇、後味の悪さが原作の比ではありません。

画面の大半はローズとシビルが映る。これに加えてサブの登場人物には女が多い。

男も出るには出ます。父親クリストファーと、刑事トマス・グッチ。しかしSHの異世界には入らずもっぱら平和な現実世界で解説役に徹します。妥当ですね。

話は変わりクリーチャーを見てみましょう。

クリーチャーは名前や姿に多少の違いがあれど、原作で見かけたことのあるようなナリ。一部のクリーチャーは原作そのままではありませんか。例えばSH2登場のライイング・フィギアそっくりなクリーチャーが序盤に現れます。

レッド・ピラミッドシングも登場。ストーリーには関わらずとも、中盤で活躍してくれるため印象に残るはず。鉈でなんとしても主人公を斬り殺そうとする今作の彼は、ゲーム以上に張り切っています。

とある人物の皮を剥ぐシーン 楽しそう

さて、ここで疑問を感じたあなた、さてはSHマニアですね。

SH2のクリーチャーはSH2主人公の妄想や性癖が具現化したものでは?」はい、その通り。どうやら映画に出てくるクリーチャーはゲームと設定が違うみたいです。一応つじつまは合わせてきていますね。



原作リスペクト

原作を基にした映画ならリスペクトは当然……と思いつつ、いざそういったシーンを見るとニヤけちゃうのがファンのサガ。今作でもそんなシーンは数多い。

まずOPやED曲、さらには作中の音楽に至るまでゲームのBGMが多用されています。映画オリジナルの音楽はあったっけ?と疑問になるほど。ここまで思い切った原作への歩み寄りはなかなか見られない。

ノイズ演出。車のラジオ、携帯電話、無線などがノイズを放つ。それらは例外なく怪異やクリーチャーの前触れでした。ゲームのシステムが演出に取り入れられたわけです。

ちらりとながら車椅子、車輪やファンなど回転物も登場します。これらもゲームでは特別な意味がこめられたものでしたが、今作でも出してくるとは憎いですね。

こんな調子で、私の目から見ても原作リスペクトを多く発見できました。まだ隠されたリスペクト要素があるでしょう。それを探すのは他に任せて私は次にいきましょう。今作の悪い点に踏みこんでいきます。



悪い点

原作リスペクト

「原作リスペクトって良いことじゃないの?」

私も、今作を見るまではそう思っていました。けど実は、決して良い方向にばかり働くわけではないことに気付かされました。

原作BGMが多用されている。これは嬉しい、非常に嬉しいことなんですが……なんだか映画のオリジナルっぽさが薄れる。まるで原作のファンメイドだか二次創作だか、そんなものを見ている気分にさせられる。

そのためストーリー・設定を改変した点や、原作の不自然な部分を独自解釈している点なども「ああ、そういうことだったのか!」と感じるより「ふーん、君ならそう解釈するんだ」という感じ。

またストーリーの進み方が「きっかけを見つける→次の目的地へ行く鍵だった」の展開が多くまさにゲームのような作り。分かりやすくはあるけど映画っぽくない。

幸い、この感覚は原作を知る人にしか分かりません。原作を知らない人なら決して味わうことのない感覚であるため、気にしなくてよいでしょう。



ストーリー改変

これは一概に「悪い」とは言い切れませんが話していきましょう。

今作のストーリー改変においてもっとも注目されるのは、アレッサ周りでしょうね。原作でも今作でもアレッサは火あぶりになりました。しかし火あぶりになった理由が大きく変えられています。

田舎の宗教の教えが、アレッサを忌まわしいもの扱いしてしまう。宗教の教えに従い悪魔の力を浄化するため、アレッサは火あぶりにかけられる。

原作よりもスケールダウンして現実的な話に近づいた。これが痛い。SHのストーリーは荒唐無稽さが面白くもあり恐怖でもあった。そこが薄められては、自然と作品全体を見る目も変わってきてしまいます。

そしてもう一つ、無視できない改変部分あり。

宗教の関わりがより意識されたのか、今作では狂信的な人々が現れます。それはもう何十人といて、異世界と化したSHの街にいまなお暮らしている(正確には魂が街に囚われている。けど人がいることには変わりない)。

人、多くない?

ゲーム経験者なら感じるでしょうが、SHの街はどう見ても人が住める場所じゃありません。ゴーストタウンであり異世界であり、夢うつつのあいまいな場所。だから人の存在は場違い。そこが曲げられたのは残念しごく。

これらストーリー改変に自分が言いたいことは一つ。

「そんなんじゃ怖くないんだけど」

とはいえ、これもやはり原作を知るからこそ文句をつける部分。原作を知らない人にとって重要なことではありません。



悪アレッサ

これは……ハァ……最悪です。

まず彼女の立ち位置を整理しましょう。

アレッサという女の子は色々あって火あぶりにされ、全身やけどの死んでも死にきれない状態になりました。極限状態が負の感情をふくらませ、SHという異世界を生み出すに至ります。

今作では異世界を生み出した際に、彼女の負の部分がひとりでに動きはじめる。これが悪アレッサ。アレッサの分身ともいえます。

ハッキリ言うぞ! お前はジャマだ!!!

悪アレッサは貞子のなりそこないみたいな見た目。登場時点でローズに話しかけてきてご丁寧に幻覚を見せて驚かせてくる。ハァ? なに幽霊みたいなことしちゃってんの?

その後も演出が鼻につくわ「私は悪魔の子」と言い出すわ血を浴びながら踊りだすわ。もう演技から演出に至るまでぜんっぜんSHに合ってない! せっかくそれなりに再現されていたSHが、この女が映るだけでB級ホラー映画にまっさかさま。

なんでなんだ!? なんで丁寧に作られていたのに悪アレッサだけこんなに狂ってしまったんだ!? どうした監督! どうした製作チーム!

絶対に許さない。こいつが映っているシーンを掻き集めて燃やさなければ。

火あぶりだ!

火あぶりだ!


悪魔の子め!

デーモンめ!


デーモンは火あぶりだ!



結論
今作はよくまとまったホラー映画です。原作を知っている人にとっては首をかしげたくなる部分も多々あります。それを考慮しても褒めるに値します。SHの世界をよくもまあここまで再現してみせたものです。

ストーリーは後味の悪いところもあり、万人に勧めづらくはありますね。ただその緊張感が、他のホラー映画とは一味違う体験を与えてくれることでしょう。

……え、悪アレッサ? そんなやついないよ。

ところで今作のラスト、釈然としません。ローズやシェリルがけっきょく助かったのかどうか分からない。この終わり方、映画企画は単発で終わるつもりだったのか。と、思いきや6年後に続編が現れました。

わー続編だー楽しみだなあ!
というわけでサイレントヒル祭りPart3では、その続編について記していきます。

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